北の大地の美味しさを伝える野菜サーカス団~士別市・やぶかわ農園~|HFT19

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やぶかわ農園の大川さん、にんにくピクルスと持っての一枚
2024-09-06

 

今期の取材も今回で4回目となり、今年予定している取材活動もあと残り3回となりました。


この度は士別市にあります“合同会社やぶかわ農園”さんにお伺いしてきました。やぶかわ農園さんでは北海道在来種の“エゾにんにく”や“ミニトマト”に“パプリカ”の他、“さつまいも”や“大豆”など多種多様な野菜や穀類などを栽培しています。ミニトマトに関しては実に6種類もの栽培を手掛け、普通ではなかなかお目に掛かれない変わり種を扱っている他、自ら製作した自動栽培システムを導入する等、独自路線による先鋭的な農業を展開しています。


農園を始めてまだ2年程ということですが、農業を営むことになったキッカケや商品開発に至った経緯などについて、園主の大川さんにお伺いしてきました。


みなさまに記事を読んでいただき、商品に興味をもってもらえると嬉しいです。


 

北の大地の美味しさを伝える野菜サーカス団~士別市・やぶかわ農園~|HFT19

合同会社やぶかわ農園 代表社員 大川 聖之さま
取材:ライズ北海道 山本、亀山

やぶかわ農園、笑顔の大川さん
〔やぶかわ農園の大川さん笑顔の一枚〕


―本日はお時間をいただきありがとうございます。今朝札幌を出て士別に入りましたが、こちらは気温が低いように感じました。


大川さん:昼夜で気温がぜんぜん違って昨日の夜は久しぶりに15℃くらいまで下がりましたね。


―それは低いですね。


大川さん:今時期だと夜は肌寒いくらいですが、盆地なので夏の昼間は普通に35℃くらいまで気温が上がりますよ。この前、道内最高気温が士別市(朝日町)と発表されていて、ここが道内で1番暑いんだと(笑)


―そこまで暑いと農作物に影響は出ないのでしょうか?


大川さん:去年から就農したんですが、気候に合わせた作物を作っています。例えばサツマイモとか。以前はこの辺でまったく採れなかったものをやっています。


 

やぶかわ農園の鈴なりのミニトマト
〔鈴なりのミニトマト〕


―去年から就農されたとのことですが、やぶかわ農園をはじめた経緯をお伺いしてもよろしいですか?


大川さん:僕は2018年に埼玉県から北海道に移住してきて、士別市で就農研修を受けていたんです。たまたまその研修で今一緒に農園をやっている籔と知り合いました。話してみるとお互いやりたいことが似ていたので、意気投合して一緒にやろうねと、会社として農園を始めたいねという話になりました。


―それで去年に合同会社としてやぶかわ農園を始めたんですね。大川さんのやりたいことって何だったんですか?


大川さん:加工品をやりたいと思っていました。それこそ北海道が主催している「フード塾」があって、起業前だったんですけどなんとか入れて貰えたので、そこで学びながら加工品の準備を進めることができました。準備と同時に試験販売も始めて、まだ量は少ないんですが、やっと今年から販売ができるようになりました。


―大川さんの移住の話になりますが、埼玉県から士別市に移住をしたのは何か想いがあったりしたんですか?


大川さん:実は生まれは稚内市なんですよ(笑)親が転勤族で4年に1回くらい転勤するので、岩見沢に行ったり、そのあとは札幌で中学校まで行って、高校は日高ですし、そのあとカナダに就職して・・・。


―カナダですか!?


大川さん:そうです(笑)カナダで4年くらい働いた後、仕事で札幌に戻って、その後に東京へ転勤して、埼玉で暮らしてました。子供の生まれは埼玉ですし僕が一番長く住んだのも埼玉なので、どこの人?と聞かれたら埼玉って言ってるんですよね。


―なるほどですね。そのあと士別市に移住したんですね。


大川さん:前職が医療機器のIT系の技術営業をやっていたんですけど、たまたま大宮(埼玉県)で異業種交流会があって、そこで農業系のIT機器の人と仲良くなったんです。もともと農業が好きで市民農園を借りていたりして興味もあったのでその人に色々と聞いてみたんです。すると結構単純な機器のようで自分でも作れそうだなと思いました。それで農業をやることにしたんです。


―自分の好きなことと前職の経験がかみ合って農業をすることにしたんですね。それで農業やるなら生まれ育った北海道だと。


大川さん:もともと山梨県とかで妻と二人で農家をやって暮らそうと思っていたんですけど・・・それで妻に話したら北海道で農家をやってみたらと言われたんです。最初は雪の少ない苫小牧とかで探していたんですけど、妻からそんなんじゃ駄目だと言われて(笑)「北の国から」くらいまで行かないと駄目だって言われて、この朝日町に来たんですよ。


―挑戦するなら厳しい環境で!ということですね(笑)素晴らしい奥様です!(汗)


 

やぶかわ農園で採れた北海道在来種のエゾにんにく
〔北海道在来種のエゾにんにく〕


―それで士別市に移住してきて就農研修で出会った籔さんと共に“やぶかわ農園”を立ち上げたんですね。そこで加工品として「にんにく香るサラダピクルス」を開発されたわけですが、この商品の開発に至った経緯をお伺いしてもいいですか?


大川さん:実はフード塾がキッカケなんですけど、エゾにんにくは出荷できるところが無くて、販売しようと思ったら完全に自分達で探すしかないんです。そういう中で僕が加工品に興味があったのでフード塾で学びながら何を作ったらいいのかを考えていました。その時にピクルスが気になっていて、にんにくでピクルスを作るとどうなるんだろうと思ったんです。


―フード塾が商品開発のキッカケだったんですね。


大川さん:そうですね。ただ、そこからどうするかってかなり悩みながら開発しましたね。30種類くらい試作品を作ったんですよ。たまたま鹿児島のお酢屋さんが協力的でそこに依頼をしました。お酢も何種類も作っていただいてみんなで試食したりしました。


―ではこれが最高の黄金配合ですか?


大川さん:みんなで食べた時にこれが一番いいって言われたので、じゃあこれにしようってことになったんです。


―本来なら農協に出荷できる野菜を作るのが手っ取り早いんでしょうし、マーケットもあるから楽じゃないですか。でも逆に独自路線で行ったんですね?


大川さん:農協さんと喧嘩しているわけではないですからね(笑)ただ農協さんとやるとなると、指示された通りの作物を作って出荷することが前提だったり、自分たちの作ったパプリカやミニトマトも取り扱えなくなっちゃうんですよ。やっぱり大川家と籔家の4人で始めた“やぶかわ農園”なので、4人で思い描いていたやりたい農業をやってみようとなったんです。


―なるほどですね。しかし、農協さんに属さないとなると販路は自分達で見つけるしか無いんでしょうね?


大川さん:そうですね。基本的にはネット販売と道の駅さんとか、あと地元の販売店に置いてもらったりしてますけど、本当になかなか大変ですね。


 

見事に実ったやぶかわ農園のパプリカ
〔見事に実ったパプリカ〕


―にんにく香るサラダピクルスを開発する中で苦労されたことはありますか?


大川さん:苦労したことは誰1人食品に携わっていた人間がいなかったということですね。結果的に1本をつくるために研修中から2年近くかかりました。法律も知らないし食品表示もJANコードも分からないし、その時は加工場も無かったし、どういった許可が必要なのかもまったく分からないところからのスタートだったので、これを作るための全てで苦労しました。


―ゼロからのスタートは苦労の連続だったでしょうね。完成した時の喜びはひとしおですね。


大川さん:試食品ができて評価のために皆さんに食べてもらった時が嬉しかったですね。それまで本当にちゃんと作れているのか?と悩んでいたので、「こっちの方が美味しい」とか「ちょっと嫌い」だと言ってもらった時にやっとここまで来たんだなと思いました。商品が完成した時の喜びは4人皆凄かったです。


―苦労した分、なおさら嬉しいですよね。


大川さん:そうですね。でも、どこで苦労したのかと聞かれても答えられないので、全部ですという回答になってしまいます(笑)喜びの方が強すぎちゃって苦労したことを忘れちゃいましたね(笑)


―苦労と喜びがあった分、この商品に対する想いは特別ですね。


大川さん:今考えると無謀だったと思うんですけど、ただただ必死でやってました。作物からこだわって作っているので、そういう意味でも想いがこもった商品です。


 

やぶかわ農園の「にんにく香るサラダピクルス」
〔「にんにく香るサラダピクルス」イラストはにんにく男爵〕


―やぶかわ農園は2家族4人で経営されているとのことですが、商品開発をするにあたりそれぞれがどういった役割だったんですか?


大川さん:それぞれ得意なことが違います。僕は営業とかマーケティング関係をやりながら、畑のIT機器を作ったり直したりをやってます。籔はもともと酪農ヘルパーをやっていたので、トラクターとかも全然乗れるんですよね。なので基本的にメインで畑の作物の管理をやってもらっています。僕の妻はデザイン関係の学校出身なので、その関係は全て妻に任せています。籔の奥さんは簿記の資格を持っているので経理をやってもらっているという形です。


―そうなんですね!


大川さん:ただ、4人それぞれ担当を分けてはいますが、畑の作業や加工品をつくる時は4人で一緒にやることになっています。


―全員の長所が上手く噛みあってますね。ピクルスの商品デザインも大川さんの奥さんが手掛けたんですか?


大川さん:そうです!「野菜サーカス」というコンセプトでデザインをしていて、作物1個1個にサーカス団員のデザインがついているんです。


―素敵なデザインですね。奥様のセンスが光ります!


大川さん:ありがとうございます。にんにく香るサラダピクルスに書いてあるにんにくのキャラクターが「にんにく男爵」と言うんですけど、キャラクターが被っている帽子に合わせて僕も被っているんです。


―ハットが好きで被っているのかと思いました(笑)大川さんがキャラクターに寄せたんですか?


大川さん:妻に寄せなさいと命令されて・・・(笑)


―命令でしたか(笑)衣装代が掛かりますね(笑)


大川さん:ハットは経費で出すと言われています(一同笑)


 

大川さんから農園の説明をうける亀山
〔大川さんから農園の説明を受ける亀山〕

―今回の商品開発にあたりノーステック財団から支援を受けているということですが、どのような内容ですか?


大川さん:ノーステック財団さんの支援は私たちにとってとても大きいものでした。この支援がなければここまで一気に進めることができなかったと思います。去年、池袋で試験販売に行かせてもらった際は交通費の補助をしてもらいましたし、色々なイベントに参加させてもらって、様々な方と繋げていただけたりと、とても大きな力になりました。今こうやってライズ北海道さんとお話していることもそうですしね。


―11月のビジネスEXPOの時に初めてお会いしましたよね。


大川さん:最初にお会いした時にノーステック採択商品に関して色々と協力していただけると聞いて嬉しかったです。ちゃんと僕の話を聞いてくれる人たちだと分かり安心しました(笑)


―ちゃんと話を聞いて発信します!(笑)結果的にノーステック財団の補助事業を受けてどう感じましたか?


大川さん:他の補助事業と違って、申請したらすぐに通るっていうものじゃないんですよね。自分たちの事業計画があって、その中でやりたいことを明確にして出すんですよね。その明確なものに対してノーステックさんは必ず応えてくれます。一番心配していたのが販路だったんですけど、申請時の事業計画としてリアル・メディア・ECの3つを上手く使って販売したいと書いたら、こうやってライズ北海道さんに繋いで下さったり、テレビ局のイベントに参加させていただいたりと本当にありがたいです。


―ノーステック財団はそういったところのハードルを下げてくれているように感じますね。


大川さん:僕たちみたいなスタートアップの小さな会社にとって、ノーステックさんの支援の仕方っていうのは何よりもありがたいですね。他にはない支援です。支援はお金だけじゃなくて、ノウハウとか、先に繋がる経験とか、ゼロから進めるスタートアップの企業としてはノーステックさんの支援はとても大きいですね。


 

収穫されたエゾにんにく
〔収穫されたエゾにんにく〕

―最後の質問になりますが、北海道の食の今後についてお伺いしてもよろしいですか?


大川さん:これから気候変動が進んで採れるものがどんどん変わってくると思いますが、僕の中では北海道の食の未来は明るいです。なぜ僕らが北海道を選んだかというと、北海道ってこれだけ豊かな土地があって環境も良いですし、ここなんかも天塩川(てしおがわ)が流れてますから水も良いですし、作物を育てる環境としてはこんなに優れたところは無いと思っています。北海道は寒暖差もあって、少ない農薬で育つんですよ。実はパプリカ以外は完全無農薬です。


―それは凄いですね!


大川さん:その代わり虫食いも出ますよ。でも僕の経験では埼玉で同じことをやろうとしたら葉っぱなんて全て無くなるんです。でもここだと虫の害が少ないですね。湿気も少ないのでトマトもパプリカもにんにくもそうなんですけど病気にもなりづらいんですよ。


―北海道での栽培は良いことばかりですね!


大川さん:自分もそうですけど、人間は年を取っていくと体に良いものを求めるようになってきます。そういう面で無農薬もそうですけど、自然に近いところでつくったものは体に良いと思うんです。そう考えると、北海道でつくった作物や北海道の原料で作った加工品は間違いなく他よりも自然に近い状態で体に良いものが作れると思います。


―北海道の食の未来は明るいですね!


大川さん:販売で立たせていただいても、お客さんに道産はおいしいよねって言ってもらえることもありますし、その時になぜ美味しいのかを説明すると納得してもらえたりして、北海道のものだから食べてみたいと感じてもらえたりするので、そういうところでも北海道の食の未来は明るいと思っています。


―北海道の持っているポテンシャルを活かしていきたいですね!


大川さん:そうですね。まだまだ僕たちも頑張りたいと思います。


―本日はお時間をいただきありがとうございました。


 

ミニトマト詰め合わせセットと野菜サーカス団のイラスト
〔ミニトマトの詰め合わせと野菜サーカス団のイラスト〕

 

取材を終えてやぶかわ農園を出た後、私は高村光太郎の名言を思い出しました。


 

『僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る』


 

あまりにも有名な言葉ですが、“やぶかわ農園”さんのこれまでの挑戦を想像したところ、文字通り道を切り開きながらここまで歩んでこられたものだと思いました。


インタビュー本編では触れていませんが、ピクルスに使用している北海道在来種のニンニクは種が売っていないので籔さんのお祖母さんが作っていたものから増やしたというお話、6種類作っているミニトマトも我々がそれまで見たことも無い品種ばかりでしたし、自作のビニールハウス自動換気システムや自動水やりシステムも然り、1.5ヘクタールという北海道では決して広くはない農地の中で20種類以上もの作物を栽培しているなどなど。その取り組みの数々は非常に挑戦的であり、先例の無い険しい道だと感じました。


それでも苦労の数々を終始朗らかな表情で話す大川さんの姿を見て、全てを“颯爽”と乗り越えることができる天性の素質をお持ちの方だと感じた次第です。


気候変動による影響は特に農業においては小さいものではありません。しかし、古いやり方に固執するのでは無く、その時々の環境に適応し、変化していくことで新たな道が切り開けるのだということを教えていただきました。


ライズ北海道はこれからも“やぶかわ農園”の皆様とその取り組みを応援します。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


 

(ライティング:亀山将人・編集:山本純己、亀山将人)

 

企業情報

◆企業名|合同会社やぶかわ農園
◆住所|北海道士別市朝日町中央4045
◆電話番号|0165-26-7472